漫湖のマングローブ植物 | Mangroves in Manko

■漫湖でみられる3種のマングローブ植物

漫湖にはメヒルギヤエヤマヒルギオヒルギの3種のマングローブ植物が分布します。この3種は葉や根、花の形がちがうので、それぞれの特徴を覚えると簡単に見分けることができます。それぞれの特徴については下の葉の写真をクリックするか「漫湖いきもの図鑑」から「漫湖の植物」をご覧ください。

メヒルギヤエヤマヒルギオヒルギ

3種のマングローグ植物のうち、漫湖で圧倒的に多くみられるのがメヒルギです。丸い葉と板のように張り出した根が特徴的な種で、漫湖のマングローブ林のほとんどはメヒルギによって形づくられています。次に多い種はタコの足のような根が特徴的なヤエヤマヒルギで、漫湖では国場川の古波蔵側やくじら公園、豊見城高校の近くなどに点在しています。一番少ないのはオヒルギで、湿地センターの近くのメヒルギ林内に少数が生育しています。

■マングローブ植物の特徴

板根・支柱根・膝根: 独特な形をした根

マングローブ植物の根にはタコの足のように地上に数多く出ていたり、板のように張り出していたり・・・など、その他の木とは違った独特な形をしているものがあります。この根にはマングローブ植物が河口の干潟や沿岸部という環境で育つことができる秘密があるのです。

■複雑な形をした根で体を支える
マングローブ植物が分布する河口や沿岸部はやわらかい泥や砂地でできています。陸上の林と比べて地面が不安定なので、普通の根ではマングローブの(地上部の)体を支えることができません。マングローブ植物の発達した根には不安定な環境で木の体を支える機能があります。

■根で呼吸する
マングローブ植物は湿地に生育するので、地下部はたいてい水につかっています。地下部の根の周りに空気が少なく呼吸をすることが難しい状態ですが、呼吸ができなくなると根が腐り枯れてしまいます。マングローブ植物の独特な形の根には、水につからない部分で呼吸する機能を持つものがあります。

板のように張り出すメヒルギの根:板根

メヒルギの根の断面(青い点線)。 幹の断面積と比較すると板根が発達している様子がわかる。

タコの足のように気根がでるヤエヤマヒルギの根:支柱根

胎生種子: 独特な形をした繁殖体(散布体)

根をのばし葉を出したメヒルギの胎生種子

漫湖でみられるマングローブ植物はすべて「胎生種子」とよばれるきゅうりのような形をした細長い繁殖体をつけます。

一般的な植物は母樹(親となる木)で種子が成熟し、散布、休眠した後に発芽します。一方マングローブ植物は、成熟した種子が母樹についたまま樹上で発芽して、ある程度の大きさまで実生が育った状態で母樹から切り離され(落下)、散布されます。切り離された繁殖体(散布体)は、母樹についたまま稚樹が育つ様子から「胎生」種子と呼ばれています。

切り離された胎生種子は、水に流されて別の場所へと運ばれていきます。胎生種子は運ばれた根を伸ばし定着します。漫湖水鳥・湿地センターの木道のまわりには、葉を数枚つけた状態に育った実生が数多く生育しています。

 

 

 

メヒルギの胎生種子ができるまで

メヒルギの花は6月ごろに咲きます。花が咲いて受粉した後、胎生種子は一年かけて大きくなります。3月の終わりから4月になると成熟した胎生種子の先端は赤く色づきはじめ、母樹から落下します。

5月下旬~ つぼみがふくらむ 6月 花が咲く 6月~ 花びらが落ちました
8月下旬 果実がふくらんできた 10月下旬 胎生芽が伸びはじめる 1月下旬 胎生種子らしくなった

ヤエヤマヒルギの胎生種子ができるまで

 
 7月 つぼみがふくらむ 8月 花が咲く。開花時期はそろわず、
冬から夏にかけて咲くが、多いのは
春から夏。
12月 果実を突き破って胎生芽が
伸び始める
 
 12月 翌年の夏に開花する花芽が
形成されている
 7月上旬 少し細いですが、
胎生種子の形をしています

海水の中でも枯れない

一般的な植物は塩分に弱く、水や土壌の塩分濃度が高くなると生育障害が起こったり枯れてしまったりします。台風がやってきてイネが海水をかぶり、枯れてしまったという話を聞いたことがありませんか?しかし、マングローブ植物は海や海水の入り込む感潮域でも生育しています。どうしてでしょうか?

マングローブ植物が塩水の中でも枯れないのは、一般的な植物がにはない塩分に対処する仕組みを持っているからです。この仕組みは一つではなく数種類あり、またその組み合わせは種ごとに違うことがわかっています。これまでに明らかにされている漫湖でみられる3種のマングローブ植物が持っている仕組みは次の通りです;

  1. 根に塩分を取り除く仕組みがある: メヒルギ・ヤエヤマヒルギ
  2. 光合成が行われる葉に塩分が届かないよう、茎で塩分が入ってこないようにする仕組みがある: ヤエヤマヒルギ・オヒルギ
  3. 水分を大量に吸い塩分の濃度を薄める: ヤエヤマヒルギ
  4. 塩分を排出する「塩類腺(塩腺)」という組織を持つ: 該当なし
  5. 細胞の中の液胞(老廃物などをためる器官)に塩分を隔離する: メヒルギ・ヤエヤマヒルギ・オヒルギ
  6. 葉の組織自体が一般的な植物よりも塩分に強い: メヒルギ・ヤエヤマヒルギ・オヒルギ

どのように塩分を取り除いているのか?など、それぞれの仕組みの具体的なメカニズムについてはわかっていないこともあり、今後の研究がまたれます。

■マングローブ林のまわりに生える植物

マングローブ林よりも陸側のやや湿った環境には、「バックマングローブ」と呼ばれる林(もしくは植物)が分布します。バックマングローブでみられる植物は潮に強かったり、湿っぽい泥に育つことができたりするなどの特徴があります。

漫湖ではマングローブ林のすぐそばまで住宅地が迫っているところが多く、バックマングローブは発達していません。唯一観察できるのは、自然な海岸が残っている漫湖水鳥・湿地センターから豊見城城跡の下部にかけての漫湖の南岸で、イボタクサギシマシラキオオハマボウシイノキカズラなどの植物が観察できます。

■漫湖のマングローブ林の構造:細くて密なメヒルギの林

漫湖のマングローブ林の断面図を書くと、場所によって林の高さや木の太さが変化する様子が観察されます。典型的な例では、林縁から林の中に進むにしたがって次のように変化します。

  1. 川や干潟に近い林縁:背が低いメヒルギが生える
  2. すこし中に入るとさまざまな高さのメヒルギが混生する
  3. もっと中に入ると5m程度の背の高い細いメヒルギが密生する

漫湖で一番多い3.のタイプの林では、メヒルギの樹高は同じくらいにそろっていて、葉は木の上の方にだけついています。そのため遠くから見ると、緑のじゅうたんのように見えるのです。専門的にいうならば、樹高5m、胸高直径(地上1.3mの木の直径)が4cmほどのメヒルギが5,000~10,000本/ha以上と高密度に生育しています。

このような林の内部には十分な光が届かないことから、明るい環境を好むメヒルギの幼木は枯れてしまいます。そのため、林の中には細い幹がたくさんならんでいる状態です。メヒルギの稚樹や幼木が見られるのは林縁や台風によって木が倒れて光が差し込むようになった場所に限られています。

一般的な琉球列島のマングローブ林では、メヒルギは明るい環境に、ヤエヤマヒルギは海に近く塩分濃度が高いところ、オヒルギは塩分濃度が低く暗いところに育つといわれています。条件が整った場所であればそれぞれの種が入り混じって林をつくるのではなく、環境の違いに応じて帯状にまとまって生育する「帯状分布」がみられるそうです。しかし、漫湖の場合はほとんどがメヒルギであり、このような帯状分布は認められません。

【参考】漫湖の相観植生図(2007年調査)
漫湖に分布する植物を見た目でタイプ分けして地図上に記載した図。図中の凡例1~4がメヒルギ群落(メヒルギの林)、4がメヒルギ・ヤエヤマヒルギ混生林、6がヤエヤマヒルギ群落。クリックすると拡大します。※『国指定漫湖鳥獣保護区における保全事業』によるマングローブ伐採前に作成された図なので現況と異なります。
出典:平成19年国指定漫湖鳥獣保護区における保全事業検討調査業務報告書 平成20年3月

■沖縄や世界のマングローブ植物

「マングローブ」とは1種の植物の名前ではなく、熱帯・亜熱帯地域の河口や干潟などの湿地に生育する複数の植物の総称です。沖縄島で見られるマングローブ植物は4種、西表島では7種です。

全世界で見られるマングローブ植物の種数は、どの範囲までを「マングローブ植物」とするかという定義によって異なりますが、「約58~60種」(Tomlinson 1986)、「78種」(中村・中須賀 1998)とされています。

参考文献

  • 「沖縄のマングローブ研究」 2006. (社)沖縄国際マングローブ協会.  新星出版株式会社.
  • 「週刊日本の樹木 第10回配本 マングローブ 西表島 楽園の森をゆく」 2004. 株式会社 学習研究社.
  • 「マングローブ入門 海に生える緑の森」 中村武久・中須賀常雄 1998. 株式会社めこん.
  • *Tomlinson, P. B. 1986. The Botany of Mangroves. Cambridge University Press.

*は直接参照していない文献であることを示す。